Director’s Eye

プロが考える映像作品の作り方

台本を書く技術 その2

企業映像などを作るとき、台本は必ずクライアントのチェックが入ります。台本のたたき台をクライアントが作ってくることもあります。

商品なり、サービスなり、その映像の中で紹介するものを一番知っているのはクライアントですから、そのチェックなくして台本を書けません。

しかし、時として、クライアントは一つの映像作品内に多くの情報を詰め込みたがります。

そこで、映像作品のコンセプト、ターゲットに合致した内容を取捨選択し、より効果的に見せる手法を提案する必要があり、それが台本の大きな役割です。

そこで、前回はまず、「易しい言葉で」「主語を明確に」と、基本中の基本を書きました。

「易しい言葉」とう意味では、クライアントが使いたがる専門用語、業界用語が視聴ターゲットに通じるかどうか、という点を考える必要があります。

一般の人には通じない専門用語でも、視聴ターゲットが社内の専門スタッフならば、それは「易しい言葉」と言えるでしょう。こういったジャッジはディレクター一人では難しくても、クライアントと協力していけば可能です。

さて、今回は、台本を書く上で注意したい、もう少し細かいポイントを挙げていきたいと思います。

 体言止め

体言止めとは、一言で言えば動詞の省略です。

新聞記事や雑誌のコラムには、字数の制約があるため、よく体言止めが使われますが、ナレーション原稿ではあまり使うことはお勧めできません。

確かに、体言止めには歯切れのいい文章になり、余韻や余情を生じさせる効果があります。しかし、文章は軽くなり、伝えたいことのニュアンスが伝わりにくくなります。

特にニュース原稿では御法度と言ってもいいでしょう。

商品紹介などの企業映像では「白さ際立つ、アリエール!」のようにタイトルコールや、キャッチフレーズで商品名を体言止めにすることはいいと思います。

それ以外の場面では使用せず、きっちりと文章を成立させた方がいいナレーションになるでしょう。

副詞

副詞というのは、簡単に言えば、動詞や形容詞を修飾する言葉です。wikipediaには

自立語活用がなく、主語にならない語のうち、おもに用言動詞形容詞形容動詞)を修飾することば(連用修飾語)。名詞や他の副詞を修飾することもある。形容詞から派生する場合、形容詞の終止形の語尾「い」を「く」に代えることでも副詞と同様な用法になり、副詞に含まれることもあるが、これは形容詞の連用形とするのが主流である。

 このように解説されています。

wikipediaのページにもいくつか例が出ていますが、

  • 彼は難問をたやすく解決した。

この「たやすく」が副詞です。

この副詞の取り扱いが、ナレーションを判りやすくするか判りづらくするかに大きくかかわってきます。

ここで、副詞の位置を変えた文章を見てみます。

  • 彼は、たやすく難問を解決した。

これでも意味は通じます。ではこれはどうでしょうか。

  • たやすく、彼は問題を解決した。

これでも意味は通じます。でも、これは決していい文章ではありません。この程度の短い文章なのでかろうじて意味が分かる、といったところでしょうか。

このように、 副詞はなるべく動詞の近くに置くことが大切です。基本中の基本とも言えますが、これをできていないナレーションを実に多く耳にします。

 

 

聞き取りにくいことばをさける

ことばには聞き取りやすい音と聞き取りにくい音があります。
一般的に、マ行・ラ行・ナ行・ヤ行の音は聞き取りにくいと言われていますが、いちいち気にするのも面倒です。

ここでは、2例だけ上げますが、この2例だけ気を付けていればほぼ問題ありません。

 

例①「約」

「約1万年前」読み方は「やくいちまんねんまえ」ですが、「ひゃくいちねんまえ」つまり「101年前」と聞こえることがあるかもしれません。

「約」はどんな場合も「およそ」「おおよそ」と言い換えます。

台本上では「約50本」と書いても、ナレーション収録時はナレーターに「およそ」と読んでもらいます。仕事のできるナレーターは言わなくても読んでくれることもあります。

例②「昨」

「昨年」「昨日」読み方は「さくねん」「さくじつ」ですが、これも上記の「約」と同じような理由です。

「ひゃくねん」「ひゃくじつ」と聞き間違われることがどれほどあるかはわかりませんが、「きょねん」「きのう」と読むのが正解です。「昨晩」は昨日の夜、「一昨年」はおととし、と、必ずいいかえる言葉があるので、無理に「昨」を使う必要はありません。

 

この2例は、私にとっては当たり前のことなのですが、最近のテレビでは軽視されているようです。ニュースでもドキュメンタリーのナレーションでも、平気で「昨年」「約20人」とか使用されています。

原稿を書いている記者か、ディレクター、あるいは放送作家が、この「約」「昨」を使ってはいけないということを知らない、そしてそのことを注意する上司がいないということなのでしょうか。

時代が進んだので使ってもよくなった、なんてことはないと思います。ただ単に制作者のレベルが下がったということであり、嘆かわしいことだと思います。

皆さんも是非気を付けてください。

まとめ

同じ文章でも、ナレーションは最終的には音声であり、聴覚情報となります。

新聞や雑誌の名文がそのまま優れたナレーションになるわけではありません。

抑揚やリズム、強弱、間が悪いと、ナレーターも読みづらく、視聴者の耳に心地悪いだけでなく、意味もわかりづらくなってしまいます。

台本作成の技術というタイトルのわりには、イロハの「イ」で終わってしまった気もしますが、最低限のマナーであり、技術は押さえておきたいものです。