はじめに2 ディレクターの技術
前回のエントリーで、ディレクターの仕事は「企画・構成・演出」と書きました。また、撮影機材が廉価になり、編集がパソコンで手軽にできるようになったことから、「撮影」や「編集」もディレクターの仕事の一部ともなっている、と書きました。
しかし、同時に、カメラマンや、エディター(編集)という職業もあり、彼らの仕事がなくなっているわけではなりません。それどころか、経験を積んだカメラマンやエディターがディレクターとしての仕事を請け負うことも少なくありません。
カメラマンは、言うまでもなく、すぐれた撮影技術を持っています。更に、優秀な他の撮影スタッフに強力なコネクションがあります。機材の手配も、手持ちのもの含めて容易で、廉価に済ませられるかもしれません。
エディターは、通常の編集技術はもとより、特殊な合成や、CGの扱いに長けているでしょう。
そのような人たちと、競うに当たって、ADからディレクターになって頑張ってきた私たちにはどのような武器があるのでしょうか?
それこそが、「企画・構成・演出」だと、私は考えています。
そして、「企画・構成・演出」があって初めて、「撮影」や「編集」ができるのです。
また、たとえ「撮影」して「編集」しても、構成に難があったり、演出プランがあいまいだと、それはプロフェッショナルの仕事とは言えません。
ディレクターの技術
TV、CM問わず、映像業界では「撮影」や「編集」は技術系の仕事と言われます。対して、ディレクター、AD、プロデユーサーは制作系です。
技術系の仕事は、とにかく、撮影機材、編集機材(編集ソフト)の使い方を覚えないと話になりません。逆に言えば、機材の使い方さえ覚えれば、とりあえずは撮影も編集もできるといえます。しかし、それではカメラマンや、エディターとは言えません。それは単なる機材オペレーターに過ぎません。
一方、制作系の仕事は、「習うより慣れろ」ですね。「映画をいっぱい見なさい」とか「本を読みなさい」とか言われますが、具体的な「ディレクターとしての技術」を教わることはまれでしょう。
「映画を見て感性を磨きましょう」なんてことを言う先輩がいるかもしれません。
それが無駄だとか、重要ではないとは言いませんが、一つ言えることは、ディレクターは感性だけでどうにかなる仕事ではありません。
機材やソフトの使い方がわかるだけでカメラマンやエディターになれないのと同じことです。
ディレクターにはディレクターに必要な技術があります。
その代表が、「企画・構成・演出」です。ただし、その内容はこれまで、あまり普遍化された形で文章化されてこなかったように思います。
著名な映画監督や、CM監督が演出作法の本を出したりしています。また、専門学校でも授業は行われているでしょう。(専門学校に入ったことがないので知りませんが)
でも、本来、これら演出作法や方法論なんて他人に教えるものではないんです。自分が試行錯誤を重ねて身につけた商売道具なのですから。
技術とセンス
カメラマンやエディターという仕事の基礎が、「機材やソフトの使い方を覚える」という技術の習得であるのと同等に、ディレクターという仕事の基礎も「企画・構成・演出」という技術の習得です。
カメラマンや、エディターの場合、機材やソフトの使い方を覚えた次の段階として、画格や色の調整など、画づくりの基礎を学ぶ必要があります。イマジナリーラインや、光の方向、カット割り、その内容は多岐にわたりますが、これについての解説は様々なところでされています。
そして、これらは、技術系だけでなく、ディレクターやプロデュサーも習得していなければなりません。
大雑把に言うと、ここまでが習得が必要とされる技術です。
感性やセンスは、これらの技術を応用し、オリジナリティーを出すためのエッセンスにすぎません。
これは持論ですが、あらゆる職人や芸術家にも、これは当てはまるのではないでしょうか。
ピカソの絵は確固たるデッサンの基礎があって、初めて前衛的な芸術になっているのだと思います。
「企画・構成・演出」と「撮影」「編集」
少し話がそれました。
「企画・構成・演出」があって初めて、「撮影」や「編集」ができると書きましたが、これについて少し補足します。
たとえば、イベントの記録を撮影して、それを短い尺にまとめる、なんて仕事がよくあります。プロでなくても、お子さんの運動会を撮影して、それを編集したいという方もいるでしょう。
また、これもよくあるのですが、クライアントが撮影してきた収録素材を渡されて、それをもとに台本を書いて編集する、という場合もあります。
このような場合、「構成」も「演出」も「撮影」後、「編集」しながらということになります。
しかし、「構成」と「演出」に関する基本的な考え方は変わりません。
たとえ、撮影前に構成を建て演出プランを固めていたからと言ってその通りに撮影がすべてうまくいくわけではありません。
ディレクターの技術とは、どんな状況でも、企画に見合った構成を建て、演出することです。しっかりとした技術を持てば、どんな場合でも、何とかなるものです。
そして、自分の持つ技術を生かすためには、ベストを尽くし、ズルをしないことではないかと思います。